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永井博士ふたたび

 朝の連続ドラマ「エール」に、以前、そらの会で紙芝居作りに関わらせていただいた永井隆博士(ドラマの中では永田武博士)が登場するシーンがありました。私は「エール」を全く観ておらず、慌ててネットで一週間分を一気に観ました(NHKプラスは受信料を払っていれば誰でも追いかけ配信が見れます。便利な時代ですね)。とても感動しました。観られた方も、ぜひもう一度味わっていただけたらと思います。

 

 作曲家古山裕一(古関裕而がモデル)は、永田武著「長崎の鐘」の映画化の主題歌を依頼されますが、テーマの大きさに作曲の方向性を見出せず、博士が暮らす長崎の如己堂を訪れます。古山の問いに博士がこう答えました。『焼土と化した広島、長崎を見て、ある若者が私に「神はいるのでしょうか?」と尋ねました。わたしは「おちろ…おちろ…どん底までおちろ」と答えました』…

 被爆後の長崎で人々は、焼け野原の地面に無傷で埋まっていた教会の鐘を見つけました。その鐘を、永田博士と共にみんなで掘り起こし、吊り下げて音を鳴らすのでした。歓喜に湧いたその音に、奇跡を信じ、未来への希望を、人々は心に宿したのでした。

 博士は古山にこう伝えます。

「神の存在を問うた若者のように、なぜ、どうしてと自分を振り返っとるうちは希望は持てません。どん底まで落ちて、大地を踏みしめ、共に頑張れる仲間がいて、初めて、真の希望は生まれるとです。その希望こそ、この国の未来をつくると、私は信じています。」「あなたは、戦争中、人々を応援しとった。戦争が終わった今、あなたにできることは、なんですか?」「希望を持って頑張る人に、エールを送ってくれんですか。」

 

 病床の永田博士を演じた吉岡秀隆の演技も素晴らしかったですね。

 そして、これらのセリフは、永井隆博士を熟知した脚本家の言葉なのか、古関裕而の記録によるものかは判りません。永井博士だからこその問答にも思います。

 真に大切なことを伝えたい時は、正しさからでは伝え切らないことも、あらためて感じます。芸術作品を観るとき、作品を創るとき、また、子育ての中で、よく、そのことを思います。